大地震のとき、タワーマンションの住民は「避難所へ行かず、自宅にとどまってください」——そんな方針を国が打ち出そうとしています。首都圏だけの話と思いきや、この流れは地方都市の高層マンション市場にも、じわじわと影響を及ぼしはじめています。
大災害のとき、タワマン住民はどこへ避難する?
政府は現在、大規模災害が発生した際にマンション住民が「避難所へ行かず、自宅で過ごす」ことを促す指針の策定を進めています。背景にあるのは、首都直下地震をはじめとする大規模地震への備えです。
2025年12月に公表された政府の被害想定によると、首都直下地震が発生した場合、2週間後の時点でも約480万人が避難生活を続けると推計されています。これはもはや、既存の避難所では到底収まりきらない数字です。
特に問題とされているのが、高層マンションが密集するエリアです。マンション住民が一斉に避難所へ押し寄せると、施設が定員を大幅に超え、混乱が生じる恐れがあります。そこで国は、「建物やライフラインへの被害が軽微な場合は、在宅で避難生活を送ってもらう」という方向性を打ち出そうとしています。
「在宅避難」は、タワマン所有者にとって何を意味するのか
一見すると「自宅にいられるなら安心」と感じるかもしれません。でも、少し立ち止まって考えてみると、これはマンション所有者にとってけっして小さくない問題をはらんでいます。
① ライフラインが止まっても「自宅待機」を求められる
在宅避難の前提は、「建物が安全であること」です。ただし、水道・電気・ガスといったライフラインが止まった状態でも、建物自体が無事なら自宅にとどまることが想定されます。高層階では水の運搬も一苦労。食料や日用品の備蓄がなければ、避難所にも行けず、物資も届かないという状況になりかねません。
② 外からは「困っているかどうか」がわからない
在宅避難のもう一つの課題として、国も認識しているのが「支援が届きにくい」問題です。避難所なら行政が状況を把握しやすいですが、各部屋に籠もっている在宅避難者の状況は、外からは見えにくい。必要な支援が届かないまま、長期間を過ごすリスクがあります。
③ 管理組合の負担が増える可能性がある
指針では、自治体やマンションの管理組合を通じて状況を把握する仕組みも検討されています。これはつまり、管理組合が平時から防災対応の体制を整えておく必要があることを意味します。管理費・修繕積立金への影響や、組合運営の複雑化につながる可能性もゼロではありません。
地方都市のタワマンへの影響はどう考えればいい?
「首都圏の話でしょ?」と思った方、少しお待ちください。
確かに、今回の指針策定は首都直下地震対策が主な動機です。ただ、一度こうした方針が国レベルで決まると、その考え方は地方自治体の防災計画にも波及していくのが通例です。南海トラフ地震や内陸直下型地震のリスクを抱える地方都市も、決して無関係ではありません。
- (1) 自治体の防災計画に「在宅避難」の概念が盛り込まれ、マンション管理組合への要請が増える
- (2) 防災備蓄・設備の整備が求められ、管理費や修繕積立金が増加する可能性がある
- (3) 「在宅避難リスク」が意識され、買い手がマンション選びの基準を変える可能性がある
- (4) 整備が進んでいない古いマンションと、設備が充実した新しいマンションとの資産価値格差が広がる
すぐに大きな価格変動が起きるわけではありませんが、「防災力の高さ」が不動産の価値判断に組み込まれていく流れは、今後ますます強まっていくと考えられます。
今後、どんな流れになっていくのか
国が在宅避難の指針を整備すれば、次のステップとして、マンションごとの「防災力の見える化」が求められるようになるかもしれません。たとえば、備蓄倉庫があるか、非常用電源があるか、管理組合の防災体制が整っているか——といった点が、将来的には物件選びの基準として意識される可能性があります。
法整備が進めば社会全体の認知も高まり、防災力が高いマンションは評価されやすくなるでしょう。一方で、対応が遅れているマンションは管理コストの増加や、買い手の目線の変化にさらされることも考えられます。指針が具体化するにつれ、物件ごとの「防災対応の差」が、これまで以上にはっきり見えてくるかもしれません。
売却を含めた今後の判断においては、こうした外部環境の変化を一つの材料として、自分の物件にとってどんな影響があるかを冷静に整理しておくことが大切です。焦る必要はありませんが、知っておいて損はない情報だと思います。
